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月のウサギ [社会]


 良寛和尚が、子どもたちに聞かせたおとぎ話がある。

 「むかしむかし、インドの天竺の山奥の林の中に、
猿と狐と兎が住んでいた。

 この三匹のけものたちは、とても親切で、仲良く暮らし
ていた。

 それを聞いた天の神様(帝釈天)が、感心なことじゃ、
ひとつためしてみよう、と言って、みすぼらしいおじいさん
の姿になって林の中へ入って行った。

 みなさん、私は昨日から何も食べていません。何か
食べ物を恵んでくださらぬか、と頼んだ。

 それを聞いた猿は、おいしい木の実を、狐は大きな
魚を取ってきて、お爺さんに食べさせた。

 ところが、兎はお爺さんに食べさせたいと思い、あちら
こちら駆け回ったが何も見つけることが出来ず、しょんぼり
と戻ってきた。

 暫く考えてから、兎は「猿くん、たき木を集めてくれんかね、
狐くん、火打石を拾ってきておくれ」と頼んだ。

 「狐くん、有難う、このたき木に火をつけてくれないかね」
狐が火打石をすり合わせ火をつけると、たき木はぼーっと
燃えだした。

 その時、兎が言った。

 「お気の毒な旅のお爺さん、私はなにも差し上げるものが
ありません。けれども幸い私の肉は美味しいのでこの私の
からだを食べてください」

 こう言うと、兎は燃えさかる火の中に飛び込んで、あっという
間に焼け死んでしまった。猿も、狐も、びっくり仰天、余りの
悲しさに大声をあげて泣き出した。

 ところがその時、これまでのみすぼらしいお爺さんは、急に
立派な神様にかえった。神様は、火の中の焼けただれた兎を
優しく抱き上げ、目に涙をたたえながら、しずかにおっしゃった。

 「おまえは、ほんとうに親切な子じゃのう。さあ、私と一緒に、
天へ昇ろう。自分のからだを焼いてまで、わしに食べさせて
やろうとしたお前の命は、きっと、生きかえるのじゃ」

 そして神様は、猿と狐におっしゃった。

 「お前たちも感心な子じゃ、兎がいなくなっても、いつも仲良く
助け合って暮らすのじゃぞ」

 こう言って、天の神様は、兎をしっかりと抱きしめて、月の御殿
へ昇って行かれた。

 猿と狐は、泣きながら、いつまでも空の彼方を見守っていた。

 その晩から、お月さまの中に、お餅をついている兎の姿が見える
ようになったと言う。

 
 遠い日、枕元で、親たちが子供たちに聞かせたお伽話でもある。
 
 今、時代は、お伽話をどこへ置き忘れてしまったのだろう。

 親たちも、子どもたちも、おとぎ話を聞く耳も、心も持ち合わせて
いない。

 満月の夜には、荒涼とした月面より、お月さまにはやはり、兎や、
月光菩薩が住んでいる方がお似合いなのであろうに.....。





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コメント 16

Azumino_Kaku

良いお話ですね、子供に読んで聞かせたいです。
by Azumino_Kaku (2008-09-04 11:24) 

mimimomo

こんにちは^^
今の社会、どういう意味においても夢がなくなりました。
悲しいことですね。
by mimimomo (2008-09-04 12:21) 

にすけん

 ウサギさんが火に飛び込んだ後のお話、初めて知りました。素敵な結末だと思います。
by にすけん (2008-09-04 12:25) 

お茶屋

思わず読み行ってしまいました☆
by お茶屋 (2008-09-04 12:46) 

k-sakamama

このお話、知りませんでした。^^
ドキドキしながら読みました。
日本昔話のアニメ、大人になってよくみてました。(笑

by k-sakamama (2008-09-04 13:01) 

wine

このお話、しっかりと覚えておきます。
by wine (2008-09-04 13:42) 

風子

満月を見たら、この御伽噺を思い出しましょう♪
by 風子 (2008-09-04 16:57) 

甘党大王

私が子どもの頃きっと素直にお伽話を聞き
ある時は涙を流し、ある時は喜び(#^.^#)
それが親子で出来ました。
でも、今の世の中・・・・純粋に育ててイイものか?
生き抜いて行けるものかと?自問自答のくり返しです。
純粋な心のままに育って欲しいと思う自分の気持ちに
度々自問自答する弱い迷える私がいます(・.・;)
by 甘党大王 (2008-09-04 18:23) 

よしあき・ギャラリー

昔、聞いたことがあるような、ないような・・・。
聞いていても覚えていない、いい加減な子供だったのでしょうね。(笑)
by よしあき・ギャラリー (2008-09-04 20:14) 

ゆき

その話し、確か 手塚修の漫画 『仏陀』 で読んだような記憶が。。。別の漫画だったかな?
でも、ウサギの行動に私もショックでした!
by ゆき (2008-09-04 20:16) 

yakko

良寛和尚のおとぎ話、恥ずかしながら初めて知りました。
良いお話ですね〜
月面があばたよりウサギの餅つきの方が夢がありますね。
のんびりした時代の方が人は生き易かったでしょうね。
by yakko (2008-09-04 22:51) 

STEALTH

私もこの話を初めて聞きました。
by STEALTH (2008-09-05 01:00) 

Luna

こんばんは^^。
「月のウサギ」、久しぶりに拝読させていただきました。懐かしいですね。
さて、今の時代、科学技術の急激な進歩によって物質的には豊かになりましたが、その反面、心だけ取り残されたような気がします。
by Luna (2008-09-05 01:38) 

palette

こんにちは。子どもの頃に読んだことがありましたが、良寛さんのお話だとは知りませんでした。良いお話をありがとうございます。
by palette (2008-09-05 11:01) 

侘び助

私も夢見る夢子さんでいたいです。
by 侘び助 (2008-09-05 20:15) 

空兵ーS

満月の表面に
まじめに兎の姿を追い求めた
子供の頃を思い出しました。

by 空兵ーS (2008-09-05 22:10) 

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