或る法話 [社会]
酒井大岳 曹洞宗長徳寺住職の法話より
『ネパールのジャングルの中で、今夜死ぬかもしれない年老いたサイが、土砂降りの雨の中、地べたに倒れて身を回転させ、すり鉢状の穴を作るのである。墓ではない。
乾季から子孫を守るための水溜めである。これによってサイは命をつないでゆく。何千万年とつないで来ている。水溜めを作ったサイは数日後には自然死を迎える。
草深いところへ死に場所を求めて消えてゆくサイを私は見た。』
子供たちを、子孫を守るために、最後の使命を果たす生命の尊厳さであろうか。生命が持つ壮絶な自己犠牲である。
英国の動物行動学者、リチャード・ドーキンズ氏によれば、生物は生き残るために、利己的な遺伝子を受け継いでいるという。
カッコーは、他の鳥の巣に卵を産み、自分の子供を育てさせる。カッコーの雛は、他の鳥の雛を巣から蹴落として自分は生き残る。 凄まじい利己的遺伝子の典型であろうか。
しかし人間は、利己的遺伝子と利他的遺伝子を合わせ持つ。 「祖国や他者のために死ねますか」、というあの犠牲と貢献の精神である。
人間には、ミーム（meme）という、心から心へと受け継がれ進化する利他的な遺伝子継承があるという。
山本周五郎、「樅の木は残った」の主人公、原田甲斐は、藩の存続のために、自らの命も名誉も捨て、逆臣の汚名を着たまま死んで行った。
男とは、大人とは、を問いかける、その生き残りに賭けた男の生きざまは、人間達に営々と受け継がれてきた輝かしい叡智であったのかもしれない。
参考図書
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