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釣忍 [おすすめの本]


 釣忍

 「江戸、長屋の 軒先に下がっている釣忍、、、、

 「釣忍、まだ捨てねえんだな、枯れちまったものに芽が
 出るかよ」 定次郎が言った。

 「あらまだ、芽が出そうなのよ」   おはんが答えた。

 日本橋の呉服問屋、越前屋の二男である定次郎が、道楽
が過ぎて、勘当され家を出て、門前仲町の芸妓、おはんを
見染め、ここ小石川に世帯をもった時に買った釣忍である。

 赤羽橋の魚屋の倅だと言って、おはんと暮らし始めて二年
になる。

 きっぱり道楽から足を洗い、おはんとつつましやかに暮らし
ていた。

 そこへ、腹違いの兄の佐太郎が訪ねてきて、母の意向で
勘当を解くので、家に帰り、越前屋を継いで欲しい、と言って
くるが、定次郎は、家を継ぐのはどこでも兄貴、総領に決まっ
ているからと断る。

 定次郎は、家を継げば、兄貴を追い出してあととりに座り
こみ、財産を横取りした、と世間に言はれる。

 おはんとの暮らしも捨てねばならない。

 結局、定次郎は、親類縁者一同が集まった復帰の祝宴の
席で、酒に酔ったふりをして大暴れ、一代狂言を繰り広げ、
再び勘当の身となる。

 「おはん、うちへけえるんだ」  定次郎が言った。

 「帰るんですって」        おはんが言った。

 「おはん」、、、、 と定次郎が呼びとめた、、、、

 釣忍に芽が出ていたな、と言おうとしたのだ。

 「済まねえ」と彼はかすかに口の中で呟いた、「おっ母さん、
あにき、、、、、堪忍してくれ」

  定次郎の、佐太郎にも、おはんに対しても、人知れず筋を
通す熱き人間味が胸を打つ。

 山本周五郎、見事な短編である。この短編の世界は、やが
て、あの長編「樅の木は残った」の世界へと投影されて行く
ように思えてならない。

 伊達藩60万石のお家騒動、藩を救うために、逆臣の汚名を
かぶり、狂言乱心を装い、死んでゆく家老、原田甲斐 の生き様
の中に、「真の大人の男」を見る思いがする。

 
 あすすめの本(釣忍、他、池波、松本、平岩、宮部の短編
 4編)

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斗夢

先日、テレビで「赤ひげ」を観ました。
原作を読み直そうと本棚を探しましたが見あたらず^^。
買いに行ってきます。
by 斗夢 (2008-11-10 05:28) 

SilverMac

伊達騒動の首謀者、伊達兵部宗勝の墓は高知市五台山にあります。
by SilverMac (2008-11-10 06:26) 

mimimomo

今時こう言う人って先ず居ないでしょうね・・・
by mimimomo (2008-11-10 09:17) 

yakko

山本周五郎さんは好きで本を読まない私でも
何冊か読みました。読む度に感動しました。
by yakko (2008-11-10 09:39) 

にすけん

 世の人々にとっての最適解を信じ、おのれの立場をわきまえて、必要なら非難に甘んじて去る。
 こういうお話って大事ですよね。

 嫌われてはいけない、傷つけてはいけない、結局のところ自分の不利益が怖いだけの情操教育で次世代を作りこんでしまっては、社会の総合エネルギーが消滅してしまいます。
by にすけん (2008-11-10 13:18) 

風子

胸が痛くなるほど、感動する物語ですね。
著者の山本 周五郎さんの人となりが
物語に深み与えているのでしょうね。
最近、いや7・8年ほど 時代物を読まなくなりました。
軽いものばかりではなく、
心を揺さぶられるような作品を読まなければいけませんね。(^_^.)
「樅の木は残った」・・このお話は私の自宅 
仙台の歴史物語です。^_^;
お家騒動は書き物を読んで知っているのですが、
原田甲斐は羽織袴を木綿で作っていたと、憶えています。
質素倹約を心掛けていたのですね。
祖父の正宗は、伊達男として派手で煌びやかで知
られていますけどね。^^
「身に余る光栄です♪」というくらいが、
丁度いいのかもしれませんね。
by 風子 (2008-11-10 21:24) 

空兵ーS

心が弱っているとき、山本周五郎さんに助けてもらおうと
図書館の書棚を漁ったことがありました。
by 空兵ーS (2008-11-10 21:28) 

甘党大王

PC(曽根ブロさん)が絶不調で(>_<)御無沙汰です~。
結婚前に友人に薦められ
『山本周五郎』の世界へドップリ(^^ゞつかった事があります。
ほぼ全てを読破したと記憶しますが
通勤電車の中で嗚咽が漏れて・・・恥ずかしい思い出も(・。・;
でも、今の方たちに感じるものは有るのでしょうか?
生活も、ものの価値観も違った今の時代
どう受け止められるのか興味ありますね(#^.^#)
by 甘党大王 (2008-11-11 11:38) 

STEALTH

山本周五郎さんの世界。私は今の子供たちにも伝わると信じています。
国語の教科書にとりあげてもいいのではないでしょうか?
by STEALTH (2008-11-11 20:23) 

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